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2008年7月18日 (金)

ココロノコエ

先日、池袋にあるサンシャイン水族館というところに初めて行ったんですが、ルックダウンというものすごい魚を見つけて年甲斐もなく大はしゃぎしてしまいました。何がすごいって、めちゃめちゃ薄いんです。すげー薄っぺらなの。その薄っぺらでルックダウンなところが友人である(であった?) マゴットちゃん(註 1)を激しく想起させたので、彼のことを話しながら一緒に行った友人と大爆笑。皆さまにも是非ご覧いただきたい。
横から見た図
驚愕の正面図
(いずれの写真も動物写真のホームページ様より。)

さて、今回は今週水曜に発売された『tears』という新雑誌からのご紹介。あれ、パステルじゃねえの?と思うことなかれ。これ、パステルの増刊号なのです。今年はパステル 10 周年らしくて、ちょこちょこ増刊が出てるんですが、これが最新の増刊。表紙には「新雑誌『tears ティアーズ』誕生!」と書いてある上、「drop 1」と、第 1 号であることが謳われてるので、ひょっとしたらさらに続くのかも(第 1 号だけって増刊も多いですが…)。

さて、この『tears』のコンセプトは? それはずばり、「リアルで泣ける本気の感動恋愛 H マガジン!!」。いろいろ盛り込みすぎて何がなんだかさっぱり…。特集は「泣ける恋」。まあ、なんつーかその、感動路線で行こうってことみたいですね。ここ数年、感動もの流行ってますからね! 『セカチュー』しかり、『恋空』しかり。巻末アンケートにも「ケータイ小説は読みますか?」とかいう質問項目がある始末。そんな時間の無駄にしかならねえもん読むわけねーだろ!と強気で返事したいところなんですが、こんな時間の無駄でしかない blog をしこしこ書いてる身では到底そんな偉そうなこと云えません…。毎号どころか増刊まで買ってるんだから文句の一つや二つ云っても罰はあたらないんでしょうが。

ところで、こういう増刊は背表紙の一番上に「オール読みきり」と書いてあることが多くて、これ、「次回に続く、みたいな話はないよ」っつー意味なのですが、パステルだとこの部分は「オール新作」という似て非なる言葉になります。
この二つの言葉は実は対になってまして、「オール新作」ってのは「どれも新作だけど、次回に続くやつもあるよ(ないときもあるけど)」という意味、「オール読みきり」は「総て 1 話完結だけど、再録ものも入ってます」という意味だったりします。この「再録もあるよ」って明記しないところが素人にはわかりにくいポイントですね。まあ、私ぐらい熟練の読者ならすぐ見抜けますが、ホホホ。
実際、今回の『tears』に収録されている中で、神代京子先生のものと夏生恒先生(註 2)のものは明らかに再録。ま、読んだことない話だったんでいいですけど(じゃあなんでわかったんだって? 私ぐらいになると絵柄の古さでわかるんです、わはは)。
また、桜野なゆな先生(註 3)のものは、再録ものに加え、その続編を書き下ろすという珍しい形のもの。こういうのは嬉しいですねえ。ページの稼ぎ方がせこい気も多少しますが、それぐらい大目に見ますよ、ええ。
まあぶっちゃけ、この雑誌は仔鹿リナ先生(註 4)のために買ったんで、この辺のことはどうだっていいんですが。

前置きが長くなりました。本題いきましょう。えー、今回はこの新雑誌『tears』の巻頭を飾る、龍本みお(たつもとみお)先生の作品を紹介させていただきます。こいつぁすごいですよ。

まず、ヒロインの幼少の頃を記録したビデオを両親がご鑑賞。明るく笑う女の子は、なんと現在、唖になっているのであります! い、いきなりこれ見よがしにヘヴィなもん抱えてまんな…。この時点でちょっとウププッと笑いがこみ上げてきますが、もちろんこの話はこんな設定だけでは終わりません。冒頭からいきなり、「この間のお見合いなんだが、その…今日断りの電話があってな」と悲しい日常をアピール。あー、ホント、涙ちょちょぎれますね。

とはいえ、そんな悲惨な出来事ばかりじゃ話が盛り上がりません。ここでカンフル剤の投入!というわけで、優しい幼馴染み登場。ハイパーベタな展開だとか思ってるでしょう? 黙らっしゃい。こういうベタな展開が泣けるんですよ。そんなこともわかってないあなたは shut up。私だって思わず笑ってしまいましたよ。ちくしょう!
もちのろんで、ヒロイン有理ちゃんはこの優しい幼馴染みに想いを寄せとります。だから幼馴染みに会うためにわざとらしく公園のブランコでぶらぶらしたりして、で、男のほうも見合いを断られた有理ちゃんに対して「でも断られてよかったよ」と、当然のように両想い。それ以外の展開とか考えられません。だって、マーケティング的に許されないでしょう、その他の展開なんて?

しっかあああし。まだここは起承転結でいえば「起」の段階です。続く「承」では、「有理、オレのこと好きだろ」「おまえわかりやすいんだよ」「オレだって好きだ」「本気だよ」「おまえのハンデごと背負う覚悟ができたら言おうと思ってた」という怒濤の告白!! しかしこれ、相手が唖だから、傍から見るともんのすげー科白を一人でまくし立ててるだけなんですが…。
それに対して有理ちゃんは「それはこれ以上ない愛の言葉」「でも、だからこそ」「知也の重荷にはなりたくない」ってんで幼馴染みを突き飛ばして逃げます。黙ってるだけに、何を考えてんのかわからんのが困りもの。もしこれ、突き飛ばされたのが私なら、「うげー、やべー、舞い上がって勘違った科白はきまくっちまったぜー、死にてー」とかって自己嫌悪に陥りまくること間違いありません。顔真っ赤ですね。そいで誰かさんたちが楽しみにしてる秘密の日記が更新されたりするわけですよ、パラノイアックに! やばい、ホントに死にたくなってきた。

ああ、だめだめだめだ、敬愛するナボコフ先生が極めて低級だと軽蔑する読み方、「感情移入」をやってしまいました。すみません、ナボコフ先生!! まだまだ背筋で読むには修行が足りませんです!!

Kokoronokoe2
ちなみに、知也くんを突き飛ばして家に帰ってきた有理ちゃんはこんな感じ。「こんな私を好きだって言ってくれてありがとう」「その気持ちだけで十分だよ」「一生分の宝物になる」。

気を取り直して「転」を見ることにしましょう。えーと、両親とか知也くんだとかの重荷にならないよう、さっさと見合いで結婚を決めちまおうと決意し、スピーディーに見合いを進めてたら、いきなりホテルに連れ込まれた挙げ句、「いいでしょう、結婚するんだから」っつって半レイプされて処女を散らし、「まったく…ホントに喘ぎ声ひとつ出ないんだな」という捨て台詞を喰らいます(面倒だから一文で書いた、とかでは全然ありませんよ!)。ぎえー、強烈。悲劇が類型的すぎてへそが茶を沸かしちまうぜー(意味不明)。

Kokoronokoe3
これが初めから厭なやつ全開のレイプ犯。「静かな女性は好きです」とか、唖の人に云っていい言葉なんでしょうか。常識を疑います。好きで静かなんじゃねーっつーの。

さらに、帰宅すると見合いが破談になったことを告げられ(まあ、マグロじゃあね…)、踏んだり蹴ったり。わが友人は、先のセックスシーンを見て「でもさあ、唖でもなんか、うぅとかうぁとか声にならない声、出せるじゃんね」などという鬼畜発言をしてましたが、そんなこと考える人はこのマンガ世界にはいません! いるはずねえ!

で、ついに「結」。「両親のため知也のため、いつも重荷になりたくないと気を張ってた」「でもそうじゃない」「重荷と思われて自分が傷つくのが怖かったんだ」「愛される自信がなかった」と悟った有理ちゃん、また公園のブランコでぶーらぶら。もちろん、知也くんの登場です!!
「またこんな所でボーっとしてんの」と声をかけてくる知也くんに対して「嬉しい。もう話しかけてくれないかと思ったのに」とか思う有理ちゃん。いやさあ、そう思うなら、なんでまた公園のブランコにいるわけ? 「あわよくば慰めてもらおう」って思ってたからっしょ? 他に理由あったら論理的に述べてみ? とまくしたてるだろう KY な私とは違い、「今さオレが来て嬉しいって思ってるだろ」「もう話しかけてこないだろうとか考えてた?」「残念、オレしつこいよ」「有理がオレの気持ち信じられるまで待ってるから」と、またも長い独白。これはすごい。赤面ものです(もちろん、嬉しくて赤面ですからね!!!)。

Kokoronokoe1
スーパー爽やかストーキング宣言。これ、相手に好かれてるからいいようなものの、好かれてなかったらえらいことですよ。ほとんど心が読めるに等しい知也くんならではの大技です。

とゆーわけでせっくる。見合いでレイプしたボケナスに対して怒りを露わにするも、有理ちゃん自身のことは優しく扱ってあげたところ、カンジまくった(この変換はパステルのデフォルトに従った)有理ちゃん、最後の最後に「あ…っ」とあえぎ声が出てめでたしめでたし。くぅ~っ、涙ぼろぼろだぜー。

う~ん、美事。「起:悲しい日常、承:少しの希望、転:絶望への失墜、結:希望を取り戻す」という極めて単純な構造を完璧に踏襲してますね。絶望するのがレイプであるところも昨今の流行だし、障害者を持ってくるあたりもあざとい。なんつーかその、誰でも描けるんじゃねえの? 偉大なアメリカの音楽家 Frank Zappa が若い頃にやっていたラジオで、単純なコード進行のピアノを弾いて「この 2 つの組み合わせで 15,000 曲の違った曲が書ける」って云ってるんですが(アルバム Mystery Disc に収録)、まあそれをマンガで示した非常に批評的な作品ってことです。これを巻頭に持ってくるあたり、パステル編集部のパンクっぷりが窺えますね。さっすがあ。

といったところで今回はおしまい。ではまた次回!

註 1:「ゴミ虫」という呼び名は呼んでるこちらの心がすさむので変更しました。意味が知りたければ、maggot で辞書を引いてください。なんてーか、こんな意味なのに、口に出すとかわいらしい響きがチャームポイントです。

註 2:恐らくパステル連載陣で最も大御所なので、いずれ紹介させていただきます。

註 3:パステル連載陣の中ではトップクラスの技倆をお持ちです。これまた紹介はいずれ。

註 4:パステル連載陣で私が最も愛しているマンガ家。なんと唯一のセックスシーンのないマンガを描くお人。絶対に紹介します!

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