王子と野獣
デザインがあまりに味気なかったので、ちょっと変更してみました。どうです? かわいくなったでしょう?
といっても、こんなかわいい画像を作る能力は私にはないので、HP素材のおすそわけ。というサイトから頂戴してきました。ただでこんなもの配布してるなんて、ありがたい限りです。まあその分、スタイルシートはココログに合わせて自分で書き直す羽目になりましたが、IE 6 だろうと IE 7 だろうと Opera だろうと Firefox だろうと Safari だろうとほぼ同じ見栄えが実現できているので満足です(精確に云うと、IE だけ全体が中央に寄ってしまうため、苺の左端が切れてしまいます。IE なんてやめて、マウスジェスチャーが便利すぎる Opera の導入をオススメします)。
前置きが長くなりました。今回ご紹介するのは、パステル 2008 年 3 ~ 5 月号にかけて連載された、神代京子先生の『王子と野獣』。
実を云うと、2008 年 3 月号はあたりの多かった号で、今後もいくつか紹介することになると思いますが、今回この作品を紹介することにしたのは、ラストがあまりにもすばらしすぎたからです。
パステルの熱心な読者である皆さまからは、神代京子先生といえば「限定アクマ」シリーズだろ!とお叱りを受けるかもしれません。全くその通り。神代京子先生の作品なら、何を措いてもまず、「限定アクマ」シリーズを紹介すべきなのですが、我が家にはなんと全然ないんですね、あのシリーズを収録した号が。これも、私が怠慢な読者であるがための不備なのですが、運良く古本屋などでバックナンバーをゲットした暁には、ここで紹介させていただきたいと思います。
では、話を戻して『王子と野獣』について述べていきたいと思います。
前回はまずあらすじをご紹介いたしましたが、冷静に考えて、あらすじの紹介は特に不要だと思われますので、今回からは省略させていただきます。
さっそく、最初から見ていきましょう。
本作のヒロインである「ちえり」は、いきなりバーで飲んだくれてます。男にふられた直後なんですね。それを見かけて話しかけてきたのが、裕樹(ゆうき)。

グラスの持ち方がハイパー cool です。男性読者の皆さんは、是非とも真似してください。
ちえりの顔についていた睫毛を拭い、それをきっかけにお持ち帰り。ちえりもノリノリで、酔い覚ましの水をわざと体にこぼし、「タオルじゃ間に合わないよ」「カゼひいちゃうからあっためて」といきなり誘惑。ここまでなんとたった 7 ページ。読者的にはまだ 5 分ぐらいしか経ってません。展開はやすぎ、神速です。Godspeed です。
名乗ることもせずに別れたちえりでしたが、翌日、大学(外観はどう見ても中学か高校)で友だちと話していたところ、いきなり現れた裕樹に声をかけられます。「きのう大学名聞いてたし、それに…」「定期にフルネーム書いてあったから」と忘れ物のお届け。大学のキャンパスって普通はすごく広いので、どうがんばったって見つからないと思うんですが(大体、大学生は大学に来ません)、まあ、真面目な学生なんでしょうね、ちえりは。
もう会うこともないと思っていたちえりは、一緒に話していた友人の強引な誘いによって裕樹と食事をともにし、雨が降ってたので車で送ってもらうことに(友だちは空気読んで先に帰宅)。雨の路面を見て、ちえりが「なんかステージの上にいるみたいでキレイ」と云った瞬間、固まる裕樹。そして、口を開いたかと思うと「ねぇ、僕と付き合ってくれない?」。ななななにー。

もちろん、この発言にはちえりも驚きを隠しきれません。しかしこれは、ナボコフ風に云うと「雨に濡れた路面のテーマ」であり、この話の根幹をなす重要なテーマです。しっかり記憶に留めておいてください。
さて、こんな感じで付き合い始めたちえりと裕樹でしたが、ある日、ちえりが蟹鍋をつつきながら「そ、そーいやこのカニご両親から送ってきたんでしょ? お兄さんのぶんはいいの?」と問います。裕樹が兄と同居しているということは、実は最初に部屋に連れてこられたときに明らかになっているのですが、ちっとも帰ってこないらしいんですね。で、そう云われて兄である力樹(りき)に電話する裕樹でしたが、なにやら兄がトラブルに巻き込まれたらしい、と力樹を迎えに行きます。
なかなか帰ってこない裕樹を待つうちに寝込んでしまったちえりに、帰ってきた裕樹はいきなり襲いかかります。

「いつもと違うのもたまにはいいじゃん」。ベロが…。出先でかき氷でも食べてきたんでしょうか。これが友人をして「王子じゃん」と云わしめ、ちえりをして「でも…優しいセックスだったな」と思わしめたあの裕樹なのでしょうか!?
荒々しいセックスを終えた翌朝、再び姿の消えた裕樹のことを思い出しながら、「でもあれはあれでいーかも」「すごく求められてるカンジがした」と回想するちえりは、同じ顔の人物が二人うつった写真を発見します。「もしかしてお兄さんって双子なの!?」。そして、帰宅した裕樹からの追い討ちをかける言葉。「ごめんね、きのう帰れなくて」。えー、ま、まさか!?!? ん、なに、べたな展開ですって? そう思ったあなたは既に神代先生の仕掛けた陥穽にずっぽりはまりこんでいるわけですが、まあとにかく、波乱の予感を抱え、第 1 話は幕を閉じます。
続く第 2 話は、裕樹による兄の話から始まります。「ひと言で言って獣(ケダモノ)!!」「とくに女性には見境いなくてね」って、なんかものすごいステロタイプな…ここでタイトルにある「王子と野獣」がそろったことになりますよね!!
で、家に帰る道すがら、路上で裕樹の車を見かけたちえりは、893 に追われる力樹と再び遭遇します。

なお、神代先生のマンガに登場する 893 は総てこの人。手塚治虫大先生のスターシステムを採用しているわけです。細かい気配りで読者を楽しませてくれる手腕、さすがと云うほかありません。
車にちえりを乗せ、893 を轢き殺そうとして寸止めし、そのまま車で逃げ去る力樹。昨晩のことを裕樹にしゃべられたらどうしようと悩むちえりに対し、力樹からは意外な一言が。「しゃべんねーよ」。そして「よかったじゃん、シュラバにならずにすむぜ?」と云う力樹に対して「そーゆー問題じゃないのっ!!」とちえりはキレ、車から降ります。それを追い、「だってアンタおもしろいんだもん」と車を降りる力樹。「裕樹のいろんな話とか聞きたくない?」と裕樹が悩みを抱え込むタイプであることなど教えてくれちゃいます。
それにしても、神代先生の口調によるキャラづけ力はすさまじいものがあります。一体、誰が「シュラバ」などという表現を思いつくでしょうか。サザン・オールスターズにそんな曲があったような気もしなくはないですが、あちらが語呂を利用した洒落のようなものであったのに対して、神代先生はこの言葉を普通の会話文に紛れ込ませることで、力樹の「憎みきれない悪党」的なイメージを強化することに美事に成功しています。くぅ~、かっこいいぜ!
そこにまたも雨。梅雨なんでしょうね、きっと。その雨を見て力樹の口から出た言葉は…。

「俺さぁ、雨の夜の道路かっとばすの好きなんだよな。なんかステージの上にいるみたいでさ」
来ました、「雨に濡れた路面のテーマ」!! 以前、同じことを云ったちえりは力樹に対してここで一気に親近感を増します。その話を聞いた力樹は、えっらい爽やかな笑顔で腕に携帯の番号を書き入れます。(なお、「かっとばす」という言葉で、力樹のキャラづけがさらに徹底されていることにも注目。)

もう、こんな笑顔されたら、乙女はどきどきですよね! パステルに出てくる女性キャラなら、まんこ濡れる恐れすらあります。ご多分に漏れず、ちえりも頬を染めるわけですが、「裕樹もアンタみたいにわかりやすいと嬉しいんだけど」とちえりが云うや否や、力樹の態度が豹変。手を出さないという約束を破って無理やりキス(警官が来たのでそれだけで退散)。
そんなことがあったあとなので、裕樹のところに泣きつきに行きますが、何があったかは云えません。それどころか、セックスしながら「もっと激しくあたしを求めてよ」「もっと」「力樹みたいに!!」と思ってしまいます。ビッチですね。さすがですね。
翌朝、裕樹が冷たい目で自分を見ていることに気づきどうしたのかと問うと、裕樹は「腕に兄の携帯番号書いてあるよ」「兄は寝た女にしか携帯番号教えないんだよ」と吐き捨て、家を出て行ってしまいます。ちえりもそれを追いますが、既に裕樹の姿はありません。「こんなつもりじゃなかったのに」「…なんで? なんでこんなことになるの!?」とマンションを出たところで座り込んでしまうちえり。
てーか部屋の鍵は誰がかけるんだろう?と思っていると、その読者の心配を察知したかのようにマンションの管理人が登場。「あれきみ…、裕樹君のトコに出入りしてるコだよね」「もしかして鍵忘れて出てきちゃったの?」と声をかけてくれます。いや、嬉しいけど、やだなあ、いきなりため口で「出入りしてるコ」とか呼ばれんの…。売女に対する差別感情が透けて見えるすばらしい表現ですね。裕樹のトコには兄が同居してることだって知ってるはずですもん、管理人だし。ああ、ビッチなのバレバレ。
なんて要らぬ心配をしていると、読者の遙か上を行く神代先生は、管理人にこんな言葉を吐かせます。「そーいや裕樹くん元気になった? 心配してたんだよ。お兄さん亡くなってからずいぶん落ちこんでたから…」。えええええーーー!?!? に、にいちゃん死んでんの!? 「知らなかったのかい!? 3 か月前にお兄さん事故で亡くなってるんだよ」という絶妙な引きで第 2 話がおわります。え、予想通り? HAHAHA、今のうちにいきがるがいい。
![]()
区役所にてゲットできるらしい謎の書類(上の画像参照)で力樹が間違いなく死んでいることを確認したちえりは、自分が出会った力樹の正体に気づきます。そこへ唐突に現れる 893。力樹をおびき出すために、ちえりを拉致ってしまいます。ちえりからとっくに力樹がこの世にいないことを聞いた 893 は自分の仕事が終わったと納得しますが、現れた裕樹にはきっちりお返し。そらそうです。車で轢かれかけましたからね。
893 が去ったあと、倒れた裕樹から兄の話が聞けます。はちゃめちゃながらも皆に好かれる兄、優等生であり続けても少し足りないだけで周囲から失望される自分。そのことを憎みつつも、どんなときでも自分を愛してくれた兄が忘れられない。とかいう感動的なはずの話が聞けるんですが、ちえりは「でも──もうあなたにはついていけない…」と至極もっともな別れを告げます。裕樹にとっては踏んだり蹴ったりですが、ま、普通に考えりゃそーなるよね。いくら兄ちゃんが死んで辛いからってさあ、自分でわざわざ兄ちゃんになりきったりしてんだもん。立派な吉外じゃないですか。んなもん、誰だってふりますよ。パステルったら夢見がちな女性ばっかり登場するんですが、めちゃめちゃまともなんで驚きましたよ。
と、喜ぶのはもちろん浅はかな読者でしかなく、しばらく経った雨の日に力樹のことを思い出していたちえりは、裕樹が力樹のふりをすることで、自分にしか見せられない一面を見せて甘えていたんだ、ということに気づいてしまいます。まあ、そうかもしれませんが、ていうか確実にそうですが、それにしたって甘えすぎです。
なーんて思うはずもなく、外に出ると歩いている裕樹を発見! ご都合主義? 何ですかそれ。抱きついて「あなたの演じた力樹があなたの一面なら、それも合わせてあなたが好きよ」と告白すればオールライト。んで、例によってセックスするわけですが、そのクライマックス「全部見せて」「心も、体も」も続く超重要な科白を皆さまに聞いていただきたいためだけに、こんな長々とあらすじを書いてきたんです。刮目して見よ!
えーーーーーー!!! 棒読み!!!!!! どこ見てんだよ! こっち見ろよ! なんだよこのラスト~。
私、このページを見た瞬間に思わずのけぞりました。やられた! それが最初の感想です。もう、このコマだけで、神代先生はその名をマンガ史に深く刻み込むことになるでしょう。序盤からのステロタイプな登場人物、予想通りな展開の連続は、最後の最後でこのどんでん返しをするためだけに用意されていた、そう読むことしか許さない圧倒的な力が、このコマには込められています。
セックスのあと、「雨に濡れた路面のテーマ」も閉じられます。回想で力樹はこう云います。「こーゆー夜は道がステージみたいで楽しいんだよ」「表舞台はいつもおまえの独壇場だからさ」。力樹も、周囲の期待を総て独占してしまう裕樹を憎む気持ちがあったんだ、それでも変わらず弟を愛してくれたんだ、そのことを悟って裕樹は遂に兄の死から立ち直るわけですが、まあ、これはなんというか、おまけみたいなもんですね。先に述べた大がかりなトリックに気づかない愚かな読者のために用意された、神代先生の優しさです。いちいち演出が心憎すぎます。
全 3 話であったものを一気に紹介したので冗長になってしまいましたが、この冗長さあってこそ最後の崩壊が気持ちよく受け止められると思ったので、読者の苦を承知で書かせていただきました。この長い稿を最後まで読み通してくださり、神代先生の魅力を少しでも感じ取っていただけたなら、紹介者冥利に尽きるというものです。
それでは、また次回お会いしましょう。
| 固定リンク



コメント